レジャー白書2020が発表されました。
算出されたゴルフ人口は、ゴルフコースが参加率5.8%で人数は580万人、ゴルフ練習場が5.5%で550万人です。ゴルフコースが前年より90万人、練習場が100万人少なくなり、率ではそれぞれ13.4%減、15.4%減と2桁の減少です。過去10年間の数字を表にしました。
読み取れる傾向は、人口の減少と個人消費は横ばいも止まらない市場規模縮小
ゴルフ参加率以外では、ゴルフコースでの年間利用回数は13.3回、練習場は19.7回でした。ゴルフコースで年間13回以上は個人的には多い気もしますが、アンケート結果を修正できるデータはありません。利用回数×ゴルフ人口=需要数(延べ利用者数)ですから、計算すると7714万人となります。2019年度のゴルフ場利用者数(速報値、NGK)8575万3000人です。差は861万人となり、10.0%もの違いになります。逆に、利用回数で2019年度の利用者数から人口を計算すると645万人となります。この場合の参加率は6.5%です。こうした数字の遊びを始めると、訳が分からなくなりますので、できれば、補正できる数式が欲しいところです。また、データマーケティングの重要性を理解されるのであれば、そろそろマーケティングに使える数値をまとめる取り組みが必要になっている気がします。
年間の費用は、ゴルフコースが14万3600円(内訳:用具等=6万600円、会費等=8万3000円)、練習場は2万2700円(会費等)でした。
経年で見ると、ゴルフ人口(参加率)は減少傾向を続けており、プレー回数は増減はほぼ横ばい傾向にありますが、年間費用(ゴルフコース)は微減傾向が続いています。
このように、レジャー白書からは中・長期的な傾向は読み取れるわけです。あくまでも白書の数字は過去のデータ解析結果ですから、傾向は読み取れますが予測ではありません(各グラフの線形線が傾向を示しています)。少子高齢化と人口減少社会の中で、今後のゴルフ人口の推移、団塊の世代のゴルフリタイアを受けて個人の消費性向がどう変化するか、実務者としては将来が見えるような数字が欲しいところだと思います。これをやれるのはゴルフ業界だけです。日本もゴルフ業界の将来ビジョンを持つためには、米国のNGFの様な機関が必要です。
統計データの誤差についての理解を深める
レジャー白書のデータは、国の政策決定の拠り所となり、ゴルフ業界などでは産業動向を把握するための根拠となってきた数値ですから、信頼性の担保は重要です。過去、レジャー関連のマーケットデータはレジャー白書しかなかったのが実情です。スポーツに関するデータは、公益財団法人日本財団や系列の公益財団法人笹川スポーツ財団から報告書が出てきましたが、総務省の社会生活基本調査やスポーツ庁が独自にスポーツの実施状況との調査が行われるようになりました。社会生活基本調査はサンプル数が約20万人と調査規模が最も大きいのですが、5年に1度の調査という毎年の調査ではないことと、ゴルフ練習場利用を含めた集計であることから使い勝手が悪いという指摘があります。ただ、スポーツ庁の調査が継続されるようになり、参加率の比較ができるようになってきました。比較できる数字が出てくれば、どっちが実情を反映しているかという議論が出てきますが、よくある判断基準が、個人が想定(期待)する数字に近い数値を信頼してよいかという問題になります。ただアンケート調査は、正しく調査が行われているとして、サンプル数が多い方が誤差は少ないことは分かっています。
国勢調査のような全数調査でない限り、コストを考えてもアンケート調査となってしまいます。アンケート調査は誤差を排除できません。この誤差について、アンケート結果を利用する人は理解をするべきです。算出された数値の前後この幅の中に答えはあると分かれば、例えばゴルフ参加率についての理解もでき、生きた利用ができるはずです。
以下の取り消し線部分は削除です。
誤差については厚生労働省の国民生活基礎調査の説明が分かりやすいです(http://www.hws-kyokai.or.jp/images/info/15_kokuminseikatu.pdfからダウンロードできます)。要約の要約をすると、寒票の目安はサンプル数2000ですと標準誤差率(%)は3.2(%)で、5000ですと2.3(%)です。3500くらいですと2.7くらいかと思いますが、ネットで探すと計算式が見つかりますから、気になる人は計算してください(分かったら教えてください)。白書のゴルフコースの参加率は、上限8.5%(程度)~下限3.1%(程度)の中にあることになります。5.8%より少ないことは想定できませんから、最大で8%台の前半は考えられるということになります。8%なら800万人を切る程度のゴルフ(コース)人口になります。単独のアンケート調査に勝手に補正を掛けることは正確性という点からも意味はないのですが、2019年のゴルフ人口計算は参加率が7.8%なら780万人となりますから、推計の計算は簡単です。
以下は上記記事の修正です。
標本誤差を計算しました。
計算式は、標本誤差=k√((M-n)÷(M-1))×(p(1-p)÷n)[√の対象は√以下すべてです]
※、定数kは一般的に信頼区間95%の場合1.96です。Mは母集団(今回の場合人口)、nは有効回答(サンプル)数、pは回答比率(参加率)
前項の≒1ですから、実際の計算は±1.96√p(1-p)/nになります。[√は√以下がすべてが対象]
±1.96√0.058(1-0.058)/3539 = ±0.8%
ゴルフコースの参加率は6.6%~[5.8%]~5.0%の幅の中にあることになります。人口に換算すると655万人から501万人の間となります。幅のあるゴルフ人口はおかしいと思われると思います。レジャー白書としては、調査結果は580万人です。ただ標本調査ですから誤差が発生します。レジャー白書を読む関係者は、この誤差があることを頭において利用すべきだと思います。仮に、レジャー白書の年間利用回数13.3回で、NGKから発表されるゴルフ場利用者数の2019年速報値を割ると、利用者数から推定されるゴルフ人口は649万人になります。なんとなく数字が似通るというだけですが、利用者数は利用税から見た間違いのない数値ですから、平均利用回数のデータを持たないゴルフ業界としては、唯一信頼できる利用者数の数値と比較するしか方法がないという現実も認識していただきたいと思います。いくつかの公表データと業界の持つ情報から独自のマーケットデータを持つ必要性を感じられると思います。[修正は以上です]
いずれにしても、アンケート結果はこれくらいの誤差の幅の中にあるということの理解が進めば、参考値としてだけでなく、独自に経営計画を策定する場合に、幅の中の数値を利用できると思います。誤差の幅が理解できれば、正しい経営判断につながると思います。
新しい生活様式はレジャーの様相を変え、ゴルフも変化を求められる
ゴルフ関連データの紹介の前に、新型コロナウイルスへの対応についてレジャー白書2020では桜美林大学の山口有次教授が、特集「2020年コロナ禍とレジャー産業」でまとめられている。詳細は白書(9月30日発行予定)を読んでいただくとして、レジャー産業は、新しい生活様式(日常)への対応が求められる結果、現象的には
1.三密対策によるキャパシティの抑制、手洗い・消毒の徹底と飛沫感染防止対策により、今まで以上に高付加価値創造が求められ、価格戦略(客単価の引き上げ)の見直しが起こる。
2.移動制限・抑制は、移動自体に新たな付加価値の付与が求められる。
3.スポーツ観戦やライブなど多人数の同時発声の抑制は、リアルからオンラインの活用への参加形態の変化を生むことにつながる。
4.3.のオンラインコミュニケーションの拡充により、個人データに基づいたオリジナルサービスの提供へという流れを作り、ここへの人的関与の在り方が課題となる。
5.リモート勤務の広がりは、柔軟な自由時間とレジャーの新しい関係作りが課題として挙げられる。
6.人材不足(外国人労働者雇用を含む)は今後も重要課題であるが、今後は、生産性向上と雇用条件の向上、新たな人財募集・育成が重要になる。
注:現象としては、5.については、英国ではロックダウンの結果、余暇時間の消費が、ソーシャルディスタンスが確保されるゴルフへの需要から、新規入会者が増えるという顕著な動きが現れています。デイビッド・アトキンソン氏の、低い日本の生産性向上に最低賃金の大幅な引き上げという提案がされているが、賃金上昇による経営圧迫という否定ではなくて、彼のいう会社の淘汰と生産性の高い企業の育成という産業構造の転換を含めて広範な議論が必要になっている気がします。
いずれにしてもコロナとの共存する新しい生活様式の下で、レジャー産業はイノベーションを進めざるを得なくなっています。この動きの中で、ゴルフは今までと同じでいいとはならないはずです。新しい生活様式が定着する中で、ゴルフに求められている内容は変化するはずです。ただし、ゴルフの持つ特性が新しい生活様式の中で再評価されて良い点もあるはずです。例えば英国で再評価されているソーシャルディスタンスが確保できる点、プレーやメンバーシップというコミュニケーション力と社会性、そして新型コロナウイルスは、健康が最大のテーマとしてクローズされたわけで、ゴルフを通じた健康維持・増進だけでなく、メンタルヘルスへの好影響といった、新しい生活様式を支えるスポーツとしてなりえるという点です。
変わるという点では、ゴルフが今まで以上に人の生活に密接な関係を作る環境整備が必要になるということです。R&AやUSGAが進める9ホールプレーの促進はその一つの動きと捉えるべきです。ゴルフが今まで以上に普及するためには、社会は求めるニーズを満たすスポーツでなくては、認められないでしょう。社会のニーズに応える答えを、ゴルフ業界自身が見つけなくてはいけないわけです。それが、コロナと共存する新しい生活様式の中でのゴルフの姿のはずです。
レジャー白書の速報分について紹介しました。統計への正しい理解がなければ、レジャー白書の数値も意味を待たなくなっています。利用する実務者がどう理解して、どう利用するかが、白書のデータを生かすことにつながり、数字だけを議論していると本来の利用目的に使えないことになります。そろそろゴルフ業界が、自助努力として共有できるデータの整理を自ら行う時期に来ている気がします。白書に限らず、スポーツ庁もゴルフだけを特別扱いはしないでしょう。官産学の共同はできると思いますが、これもゴルフ業界が取り組むことが前提だと思います。
注:記者発表資料は財団法人日本生産性本部ホームページ(https://www.jpc-net.jp/research/detail/004580.html)からダウンロードできます。
追記:誤差の範囲について、スポーツ庁の実施状況調査で見ると2万人調査ですから誤差の範囲は±0.4%、社会生活基本調査では約18万人でしたから±0.1%です。精度という点ではサンプル数に強く依存することが分かります。問題は費用対効果です。サンプル数が多くなれば単価は下がるとしても、0.数%の誤差を小さくするために数倍の費用をかけるかどうかです。