日本のゴルフマーケットの現状と今後の取り組み 2

注:特性サービス産業動態調査の調査対象地域は、北海道、宮城県、東京都、愛知県、大阪府、広島県、香川県、福岡県の特定地域8都道府県です。紹介するグラフでも明白ですが、集計途中で変更が行われており、数値に不連続があります。データから見ると大きな変更は2002年と2006年と考えられます。練習場は北海道が札幌市に。調査は2000年1月から実施されています。

 特定サービス産業動態調査(特サ実)は、政令指定都市が所在する地域が8地域中7都道府県と調査地域が人口密集地に集中しており、この結果が全国の実態を現しているわけではありませんが、その名称が示すように「物事の動いている状態。また、変化してゆく状態」を把握する市場動向を知る先行指標として動きに注目すべきです。特サ実の利用者数を、一般社団法人日本ゴルフ場経営者協会(NGK)から発表されるゴルフ場利用税から見た利用者数のデータ(2018年度)と比較すると、過去10年と19年の平均値で最新の数値との差で比較すると、過去10年は特サがマイナス3.1%で利用税データはマイナス2.2%、過去19年は特サがマイナス2.7%、利用税データはマイナス3.6%です。

 以上のような差があることを前提に、特サ実のゴルフ場データの分析を進めます。

利用者数減少と止まらない売上高の減収
 過去20年間の利用者数と売上高をまとめたのが下図です。
 利用者数が最大だったのは2003年で、以後減少を続け、2015年前後にやや持ち直すが、減少傾向は続いている。ゴルフ人口の把握はサンプリング調査で行われており、どの調査であれ調査対象人口×参加率で算出されます。調査結果にブレがあるにせよ対象人口が減少している以上大きく改善する状況は考えにくいと言わざるを得ません。これはゴルフに限りませんが、潜在需要が300万~400万人前後※見込まれることと、1人当たりの利用回数を増やすことで市場規模の拡大は可能です。つまりイノベーションにより市場拡大は可能です。
 しかし、楽観できる状況にはありません。売上高の推移は、ピークの2002年と比較すると2019年は25.5%縮小しています。利用者数は2003年/2019年比較で▲6.9%でしたから売上高の減収が大きいことが分かります。単純に比較すると売上高の落ち込みは利用者数の減少の3.7倍です。
 この差は客単価の落ち込みということになります。

 客単価は、2000年の1万4100円から2019年は1万円を割り込み9900円になっています。金額で4200円、率で29.8%安くなっています。消費者であるゴルファーからすれば、安くなったから利用回数を増やそうというプレー回数を増やす行動につながって、ゴルフ人口が減少する中で利用者数が横ばいで推移するという状況を生んでいるわけです。現状のプレー料金が下がることで延べ利用回数を維持している状況説明になっています。
 ゴルフ産業は、利用者数を現状で維持しようとすれば、人口減少社会(ゴルフ人口も)という社会構造の大きな変化の中では、利用料金さらに下げなければいけないというジレンマに落ちっています。さらに客単価の減少率(▲29.8%)が売上高の減少率(▲25.5%)を上まわっていることから、売上高はさらに減収するということになります。ゴルフ場は売上げの負の連鎖が始まっていることを理解しなくてはいけません。客単価については、最近の数年間は1万円前後で推移していますが、これはNGKの利用税から見た利用者状況の非課税利用者数の増加に象徴されるように高齢者の利用が堅調に増えているからです。団塊の世代がこの世代に移行し、今後5年ほどはこの傾向が続くと予想されますが、問題は5年後の2025年以降です。高齢化によってプレー回数の減少が予想されることと、次に続く世代の人口が少ないことから、近い将来喪失する高齢者層の需要量を次世代の需要がカバーできないことです。
 客単価を上げる工夫がない限り、人口の減少は需給バランスをさらに悪化させ、客単価の減少圧力を強め、売上規模を下げることになります。ゴルフ業界としては、ゴルファーという顧客のセグメントしっかりと行い、需要レベルに合わせた、顧客対象を絞り込んだ顧客対応できるゴルフ場へと明確な業態転換が必要です。確かに、一時の外資系のゴルフ場によってゴルフ場の価格破壊が起きましたが、これは崩れた需給バランスからきた必然的な動きです。価格面での市場構造の再編がいま進んでいるわけです。説明してきたように低価格化の流れは止まっていませんし、団塊の世代が後期高齢者となることで必然的に需要量が低減します。需要量の減少は供給過多の状況を生みますから、再び料金の低価格化という流れが起きます。
 この流れは全体としての話です。第1回の原稿でマズローの要求5段階説について紹介しました。市場が成熟した社会では自己実現を消費者(顧客)は求めることになります。何か実現したいこと、イメージで言えばたぶん「幸福」が適切だと思いますが、幸福だと思う状況を、ゴルフが実現できるとなれば、価格は2次的な要素ということになります。欲求の程度で変わります。ゴルフが欲求の実現をサポートする手段となることで、ゴルフが選ばれる。この欲求を探すのがマーケティングです。

進む会員利用の減少
 ところで、日本は会員制ゴルフ場が9割を占めますが、巷間言われているように会員制の意味がそろそろ問われる時期になっています。というより、ゴルフ場が考えなくてはいけない重要な課題となっています。実態的にはビジター収入に過半を依存しているわけですが、本来最重要な固定客である会員について再検討すべきです。
 ビジター依存度が高くなれば、その結果として会員権利は抑制されることになります。会員の権利・義務について再検討しなくては、これからの会員制ゴルフ倶楽部の運営は行き詰まることにならざるを得ません。会員が高負担に応えられる倶楽部は、閉鎖的な倶楽部として評価されるでしょうが、そうした倶楽部が多く存在できる経済環境にはありません。今後さらに厳しくなると予測されることから、やはり実態に即した運営・経営に転換しなくては、経営を続けられなくなると予想されます。
 この会員の利用状況ですが、利用数に占める比率は2019年で29.2%です。過去20年で2004年が33.0%で最も高かったのですが、約4%少なくなっています。最近は30%前後を続けていますが、これまで説明してきたように需要量が減少すれば会員になろうとする需要(人数)は低くなるでしょう。ゴルフ場経営面では、ビジター依存度がさらに高くならざるを得ないということになります。会員が何を望んでいるのかを改めて問うべきです。ゴルフプレーというひと括りで捉えるのではなくて、どんなゴルフプレーなのか? プレー以外のニーズは本当に希薄なのか? 同じことが、会員以外の利用者(顧客)についても、彼(彼女)らのニーズの把握をすべき時期になっていると思います。

 曜日による利用状況を示しました。
 土日・祝日の利用(構成比)が縮小しています。平日の利用が増えている理由、土日・祝日の利用減の理由を詳しく調べるべきです。利用人数、性別、年齢といった分析から、利用者増対策のヒントが見つかるかもしれません。

非正規社員は半数以上に
 ゴルフ場の授業員の確保が経営課題となっています。ゴルフ場の従業員実態から、正社員とアルバイト・パート等の非正規従業員の構成を見たのが次のグラフです。1事業所当たりの従業員数も減少傾向にありますが、正社員数の減少と非正規社員の増加という一般社会で問題になっている状況がゴルフ場でも明確になっています。非正規社員の構成比は32.3%から半数を超えて51.5%にまで高くなっています。

次回では、18ホール換算で見たゴルフ場経営を紹介します。

By 喜田 任紀

月刊ゴルフマネジメント前編集長、一般社団法人関東ゴルフ連盟グリーン委員会参与

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