NGF(米国ゴルフ財団)は、毎月のゴルフ施設利用者の動向をまとめて発表しています。日本では残念ながらゴルフ業界としての国内情勢についての情報発信がありません。一般社団法人日本ゴルフ場経営者協会(NGK)から年度別の(ゴルフ場利用税からみた)ゴルフ場利用者数が発表されていますが、公表されているデータは限定的で「今」の状況に即したものではありません。

 ゴルフ業界も、少子高齢化と人口減少という社会構造の変化の中で、さらに新型コロナウイルスへの対応に苦慮しているのが現状です。しかし、こういう状況だからこそ、最新の情報が必要であり、正しい状況把握と分析を行う必要があります。米国のNGFのような機関が日本に必要と、過去、月刊ゴルフマネジメント誌で訴えてきましたが、残念ながら未だ日の目を見ていません。ま、言っているだけではできないということなんでしょう。

 ところで、NGFのようにゴルフ業界独自の情報を持てなくても、公開情報からゴルフ業界の状況を把握することはできると考えます。先般、発表されたレジャー白書や社会生活基本調査、また最近ではスポーツ庁が「スポーツの実施状況に関する世論調査」を発表していますが、1年遅れ、数カ月遅れの情報ではアップ・ツー・デート【up-to-date】な情報ではありません。タイムラグがあります。即応することが必要な状況では、できるだけ新鮮な情報を得る必要があります。

 唯一、毎月公開されているオープン情報が経済産業省の「特定サービス産業動態調査報告」(以下、動態調査と表記します)です。公開ペースは、直近では9月15日に7月分の確報が公開されました。速報分は1週間前に発表されています。ほぼ1カ月半後には最新のデータに更新されています。ゴルフ業界が独自にデータを収集する手段を持たない以上、この種のデータを利用しない手はないと思います。動態調査の7月までのデータを紹介します。

最新の状況を把握する

 まず、NGFが発表した最新の利用者数の分析図がこれです。

 NGFは毎月のサンプル調査の結果を速報として発表しているわけですが、発表ペースも動態調査とほぼ同じです。NGFのグラフからは1月以降の利用者の動きは、1月、2月とプラスに作用していましたが、新型コロナウイルスの影響で、ロックダウンが行われ、3月はマイナス8.5%減、4月は42.2%減と半減近くまで減少したのですが、ゴルフコースの多くが営業再開した5月にはプラス6.2%へと増加に転じ、以後6月13.9%のプラス、7月は19.7%もの増加を見せ、累計利用者数も4月のマイナス16%を底に、回復基調の中7月にはプラス3%となったということです。このまま推移すれば年間ではプラス2~6%になると予測しています。

 ところで日本の現状把握という点では、NGKが加盟ゴルフ場の利用者数の把握をしています。これはNGK会員内で情報共有がされているはずです。これは団体加盟のメリットでもあるわけです。また、関東ゴルフ連盟(KGA)以外のゴルフ連盟は加盟倶楽部の利用者数が集計されています。これらの数字は非公開が前提であり、連盟間の共有が目的ではありませんから数字の共有もありませんから統合した利用はされていません。唯一利用者数を把握していないKGAが加盟倶楽部の利用者数把握を行えば全国約1500倶楽部の利用者数データが利用できる環境は整うわけです。たぶん、誰かが発言するのを誰かが待っているのだと思います。ゴルフ業界の現状を考えると、個人的にはそろそろ動き出す時期だと思います。

 話は日本のゴルフ産業の状況把握でした。動態調査のデータから、利用者数と売上げについてまとめてみました。比較はNGFと同じ前年同期の比較(増減率)です。

 動態調査で毎月の利用者数の動きを追うと、1月は暖冬でしたが利用者数はマイナス2.3%でした。2月は13.5%増でしたが、3月は新型コロナウイルスの感染拡大からマイナス10.1%、4月は37.7%もの減少、5月は30.8%減、6月は19.6%減、7月も9.2%減と、プラスに転じた米国のような状況には戻っていません。累計利用者数は7月時点で前年比17.2%減です。米国に比べて回復力が弱いようです。

 ロックダウンした米国より日本の方が回復ペースが遅い点は、ゴルフ人口の減少や先進国に中で最も高齢化が顕著といった日本の社会背景を考えると気になります。

 利用者数の回復が遅い。この状況下で売上げはどうでしょうか。次のグラフは売上データをまとめたものです。

 利用者数が回復していませんから、当然のことですが売上高も回復していません。売上げは利用者数に連動しますから3月から売上げは減少し、3月が16.9%減、4月は49.1%減と半減です。5月も似た状況で46.0%減、6月は利用者数が少し改善したことで34.1%減、7月は19.6%減となっています。累計は7月時点で27.0%の減収です。

 利用者数と売上げの比較で分かるように、売上高の減収は利用者数の減少を上まわっています。新型コロナウイルスへの対応策として価格の引き下げが行われた結果のようです。客単価の動を見ると、1、2月は客単が上昇する動きを見せていましたが、新型コロナウイルスの影響で3月には下がり始め、5月には2割以上(22.0%)下落しています。6月、7月と前年同月比で減少率は低下しましたが、客単価は前年割れを続けています。

 売上高を利用者数で割った単純平均で見た客単価ですが、3月までは9000円台を維持していましたが、4月に7900円と一挙に1000円以上の低価格化が起きています。5月はさらに安くなり7600円になり、利用者数が徐々に戻るにつれ客単価も上げてきていますが、7月で8500円と年初の価格水準まで戻っていませんし、前年より1割程度安い水準で推移しています。

 客単価について2000年からの動きを追ってみました。金額ベースでは2010年頃まで漸減傾向を続け、2011年頃から増減はありますがほぼ同水準を維持してきていました。ところが新型コロナウイルスの影響で大きく下げ、7月時点で1割安(11.5%減)です。

 さて、Go To トラベルキャンペーンですが、その効果を現れているという話も伝わってきています。集客効果もそうですが、客単価も現状の1割程度の引き上げも可能と考えられますが、このキャンペーンの期間は2021年3月15日迄です。キャンペーン効果が切れた時の反動があることを今後の政策に織り込んでおくべきです。

ゴルフ場経営実態と比較すると

- PGMの経営データから -

 では、こうした数字をどう見て、どうゴルフ場経営に生かすかですが、公開されているゴルフ場の企業情報がほとんどないことから、PGMの公開情報と比較してみました。既存ゴルフ場での、利用者数、営業利益、客単価の経営数値(伸び率)をグラフにしました。

 一目で分かるように動態調査と同じ動きを示しています。利用者数は3月から減少し、4月が利用者数減少のピークで34.5%減、7月までは前年実績割れです。ただし8月は対前年同月比で14.9%増になっています。グループの総合力ですか、営業利益も5月の43.8%減で底を打ち、7月は6.4%の増収です。ただし、客単価は前年実績まで回復していません。同社も利用者数が大きく減少した4月、5月は価格政策を利かしたようで5月には前年同期の25.2%安になっています。利用者数が戻り始め、営業利益も増益に転じてきましたが、客単価が戻りまでにはなっていないようです。ただし新型コロナウイルスの感染状況がこのままで推移するのであれば、利用者数、営業利益が増加し、早晩客単価は元に戻る気配です。

 PGMの企業データを例としてみましたが、比較対照データとして分析に使えることがお分かりになると思います。

特定サービス業実態調査報告とゴルフ場利用者数データの相関性

 それでも動態調査のデータが、どの程度の信頼性をもって使えるかという疑問を持たれる人もいらっしゃるかもしれません。例として、唯一比較対照できるNGKから発表されている利用者数のデータと動態調査のデータ(ともに伸び率)をグラフにしました。

 2001年以降の伸び率のグラフですが、2002年以外はほぼ似た動きをしています。EXCELで近似線を引くとグラフ(線形)にあるようにほぼ重なります。両者の関係性を相関係数計算すると、以下の計算結果が得られます。この計算もEXCELで簡単に出せます。相関係数は0.510814でした。

 一般的な説明としては、

※相関係数が、

 0.7~1   かなり強い相関がある          

 0.4~0.7  やや相関あり

 0.2~0.4  弱い相関あり

 0~0.2   ほとんど相関なし

 ゴルフ場利用者に関する相関係数0.5は、やや相関アリです。調査エリアの問題もあると思いますが、少なくとも関係性はあるということになり、動態調査のデータはゴルフマーケットの全体的な流れを説明しており、この流れをどう読むかは、経験が大きく反映すると思います。

※動態調査の調査対象は、ゴルフとゴルフ練習場は、北海道、宮城県、東京都、愛知県、大阪府、広島県、香川県、福岡県の8都府県です。どちらかというと都市圏で多く、地方の情報が少ない気もしますが、対照データとしては十分耐えられると思います。

 売上げの比較対象となるデータがありませんが、利用者数に連動することは経験上、また先のPGMのデータでもお分かりだと思います。

ゴルフ練習場の経営実態

 ゴルフ練習場の状況についても紹介します。

 全体としての動きはゴルフ場と同じですが、景気回復のピッチはゴルフ場より早くなっています。7月には利用者数も売上高も前年実績を上回ってきています。新規ゴルファーの創造がゴルフ業界にとっての第一命題と言ってよく、ゴルフ練習場の利用者数、売り上げともに一足早く回復基調を見せている点は好感を持てます。

 しかしながら、8月以降、利用者数が前年同月実績を確保したとしても年間利用者数は対前年比でマイナス2.2%止まりです。前年並みの利用者数に回復するには対前年同月比で30%増を確保できればプラス0.1%になります。前年並みは毎月3割アップが目標です。

 売上高は、ゴルフ練習場も客単価が下がっていますから利用者数以上の率で減収になっています。前年並みの売上げで推移するとした場合、年間の売上高はマイナス4.8%となります。新規ゴルファーの育成だけでなく、既存のゴルファー(顧客)の利用増を図る必要があるようです。

 以上、特定サービス産業実態調査のデータから利用者数と売上げについて現状を分析しました。ここから見えてくるのは、ゴルフ場、練習場共に前年以上の集客対策を打たない限り前年実績の確保は難しいということです。このデータは全体を示したもので、業界の動きを把握するとともに個別ゴルフ施設では比較対照するデータとして利用できると思います。

特定サービス産業実態調査報告:https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/tokusabido/index.html

By 喜田 任紀

月刊ゴルフマネジメント前編集長、一般社団法人関東ゴルフ連盟グリーン委員会参与

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