2020年07月03日
ザック・ニコルーディス(Zach Nicoludis)、USGA中央地区農学者
ゴルフ場のコースグリーンキーパー(スーパーインテンデント、以後、日本での呼称のグリーンキーパーと表記)は、ゴルファーが楽しめる高品質で安定したプレーコンディションを提供するために、様々なスキルを身につけなければなりません。当然のことですが、コースコンディションはゴルファーの満足度に影響を与える第一の要因として一貫して挙げられています。ゴルファーの期待に確実に応えることができるかどうかは、グリーンキーパーが農学的な原理原則を十分に理解し、それをどのように適用して芝の健康とプレーアビリティのバランスをとるかに大きく依存しています。
グリーンキーパーは、熟知していなければならない様々なメンテナンス方法の背景にある理由を十分に理解していますが、一般的なゴルファーは、農学についての高度な理解があるわけではありません。これは、維持管理作業がなぜ必要か、また、なぜゴルフコースではある決められた方法でプレーするわけですが、この点についてもゴルファーとコースグリーンキーパー間の意思疎通を難しくすることがあります。
専門的な農学への理解を得るとともに、効果的にコミュニケーションをとる能力は、グリーンキーパーとして成功するための必要な基本的なスキルです。ゴルファーや意思決定者(経営者)の理解を得る際には、コミュニケーションの重要性を強調しすぎるということはありません。
グリーンキーパーは、エアレーションやトップドレッシングなどのメンテナンス方法がゴルファーにとって迷惑なものであることをよく知っています。多くのゴルファーは、より速く、より硬いグリーンといった質の高いプレーコンディション作りがグリーンキーパーの能力にかかっていることを分かっていても、一時的な状況の混乱に悩まされたくないと思っています。逆に、ゴルファーは、過度の機械的摩耗によって芝の健康が損なわれることを十分に理解していないまま、ダブルカットやローリングなどの特定のメンテナンス作業をより頻繁に行うように要求することがあります。この事例は、効果的なコミュニケーションがいかに重要であるかを示しています。グリーンキーパーは、ゴルファーや意思決定者に基本的な農学的原則の重要性を説明して、ゴルフ場のメンテナンスの決定を支持してもらわなければなりません。
多くのグリーンキーパーは自分のコースのゴルファーとコミュニケーションをとるためにソーシャルメディア(SNS)やブログなどのオンラインツールを利用しています。これらのツールは、特に多くの利用者にすぐに到達することから効果的であること言えますが、それらには限界があります。最も指摘されることは個人的な交流が失われてしまうことです。ゴルファーがコースにいるときにゴルファーと話すという戦略は、その効果を最大限にできていない一つです。しかし、ゴルファーの理解を高め、メンテナンスの決定に活用できるフィードバック情報を得るためには、より個人的なコミュニケーション戦略に慣れておくことが有効になります。
話を聞いて質問する
グリーンキーパーは長い責任リストを持っており、通常は毎日幾つかの対応が求められています。これは仕事の一部として期待されていることですが、問題を説明することは問題を解決することと同じくらい重要であることを覚えておくこと必要があります。ゴルファーとのコミュニケーションは、グリーンキーパーの責任の中で最優先事項として含まれるべきです。何人かのゴルファーとのコミュニケーションをとる能力は自然に身につくかもしれませんが、人によっては仕事を続ける上で、このスキルを自分のものにする必要があるかもしれません。誰かにとっては自然なスキルであるかもしれませんが、ゴルファーとコミュニケーションをとることは、業務が多忙になる時であってもto-doリストの隅っこに置かれるべきではありません。
コミュニケーションについて言及されるとき、話すことがおそらく頭に浮かぶでしょう。話すことはコミュニケーションの大きな要素ですが、それ以外にも重要な要素があります。話しているときは聞いていない、聞いていないときは学んでいない」という言葉がありますが、なぜ聞くことがコミュニケーションの重要な要素であるのかを考えてみましょう。すべての会話には、それぞれの参加者が、話す機会と聞く機会があります。聞くことがコミュニケーションにとってどれほど重要かを考えたことがない人は、自分の話の聞き方に注目し、改善すべき点がないかどうかを考えてみてください。
聞くことと話すことにはバランスがあります。一人の人間が止めどもなく話しているために会話が偏ってしまうと、聞く側の人間が自分の意見を発言することができなくなってしまいます。ゴルファーからの情報のフィードバックが、ゴルファーの期待に応えるためのゴルフコースを維持するグリーンキーパーにとっていかに重要なゴルファーのフィードバックであるかを考えると、ゴルファーとコミュニケーションをとるときバランスのとれた会話を持つことは重要です。グリーンキーパーは、ゴルファーから得られた情報を処理して、それがメンテナンス方針の決定指針となるのか、それともメンテナンス方法についてゴルファーの理解を得る機会となるのかを判断する能力を持っていなければなりません。
グリーンキーパーは、ゴルファーから提供された情報を処理して、それがメンテナンス方針決定の指針となるかどうか、あるいはメンテナンス方法についてゴルファーを教育する機会となるかどうかを判断する能力を持たなければならない
ゴルファーとの日常的なコミュニケーションは、彼らの意見に耳を傾け、彼らがコースをどのように見ているかを確認する機会を提供します。ゴルファーからフィードバックされた内容の傾向が現在のメンテナンスの優先順位と一致しない場合は、農学的プログラムに盲点が生じている可能性があります。このような盲点を特定することで、メンテナンス方法を調整し、全体的なゴルフ好感度を向上させることが可能になります。定期的なコミュニケーションがなければ、潜在的な問題に気づけなかったり、単純な誤解が必要以上に大きな問題に発展する可能性があります。また、ゴルファーとの定期的なコミュニケーションは、ゴルフコースを維持するときに彼らの意見が考慮されることを伝えることにもなります。ゴルファーの声がより多く聞かれるようにすることは顧客サービスの重要な面です。
ゴルファーからのフィードバック情報は大きく変わる可能性があります。いくつかは、前述したように、建設的であり、管理プログラムを調整するためのガイドとして利用することができます。ゴルフコースの維持作業についての誤った意見を発信したゴルファーを見つけることも可能です。インターネットはゴルフコースの維持についての豊富な情報を提供してくれます。この情報の多くは正確ですが、インターネット上では何でもそうであるように、信頼できないソースが複数存在しています。
また、コースでゴルファー同士が話し合ったり、他のコースでプレーしている友人とプレー状況を比較したり、未経験のコースをプレーするために旅行したりすると、誤った情報が広まりやすくなります。ゴルファーは、必ずしもコース問題の専門家ではなく、特定のコースの固有の状況について精通していない情報源であったり、コースのメンテナンス方法についての限定的な、また不正確な情報を受け取っていることがあります。グリーンキーパーは、農学的プログラムがゴルフコースの特定のニーズに合わせてどのように調整されなければならないかを説明することができますが、ゴルファーが友人と頻繁にプレーしているコースでグリーンの転がりがどのくらい速いかを話し合っているときに、そのゴルファーからコースで実施されたすべての作業についての詳細な説明を受けることはほとんどありません。ゴルファーは、グリーンがWカットされていて、転がりが良かったと聞いたかもしれませんが、コースを維持するために何人のスタッフが働いていて、どれだけの排水性を維持し、木がパッティンググリーン表面に達する日光を増加させるためにどのように除去されたか、または積極的な耕種的管理によってしっかりとした速いグリーンスピードを作り出す集中的な管理が行われ、こうしたコンディションを準備する作業がシーズンの早い時期から実行されてきたことを知らない。
ゴルファーが見当違いの意見を持つことは容易に想像でき、このような事態が発生したときの最初のフラストレーションを乗り越えた後が、グリーンキーパーにとって最善のアプローチのチャンスであり、ゴルファーの理解を得る機会として利用すべきです。しかし、こうした会話はデリケートな内容である可能性があり、誤解をされないように情報を提供することが重要です。
ゴルファーに質問をすることは、有益な情報フィードバックのための会話を進めるための戦略としても利用できます。最近、メンテナンスプログラムに変更が加えられ、ゴルファーがその影響を認識しているかどうかを判断する必要があるかもしれません。丁寧な言葉遣いと適切なタイミングで質問をすることで、グリーンキーパーがゴルファーから求めている正直なフィードバックを得ることができます。どの質問をするかによっては、グリーンキーパーは批判にさらされる可能性があります。批判を受け入れることが困難である場合もありますが、ゴルフコースに対する正直な意見を積極的に求めることは、改善が可能な領域を特定することを可能にします。
ゴルファーがあなたを見つけるのを待つのではなく、ゴルファーを探し出すことは、二つの全く異なる相互作用を生み出すことになります。コースの状況や農学的な問題についてゴルファーと積極的にコミュニケーションを取ることは、ラウンド中にゴルファーがいつもと違うことを発見して驚いた場合よりも、より良い評価を受けることになります。さまざまなタイプのゴルファーと話すことが重要です。誰が一番よく知っているか、声が一番大きいのは誰か、誰がコースレコードを持っているかに焦点を当ててはいけません。男性と女性、またローハンディキャップとハイハンディキャップのゴルファーの両方を含めることを確認してください。そうすることで、コースをプレーするゴルファーのより正確な評価の断面を得ることができます。ゴルファーと問題を話し合うときは、解決策を用意してください。問題がすでに解決されていると、ゴルファーは安心します。いくつかの質問は継続する内容化もしれませんが、解決策をゴルファーに提示することは、より肯定的な会話に繋がります。
グリーンキーパーが、コースの状態とメンテナンスの実践についてのフィードバックを収集する唯一のものとしてゴルファーとのコミュニケーションだけに期待することは非現実的です。重要なスタッフ、意思決定者、影響力のあるゴルファーの助けを借りることで、グリーンキーパーのカバーする範囲を広げることができます。積極的なコミュニケーション戦略を実施する場合は、グリーンキーパーに代わって情報を伝えることを任された人たちを教育することが必要です。
効果のあるコミュニケーション戦略
従業員、意思決定者、ゴルファーを含めた施設全体のコミュニケーション戦略を開発することで、コースの状況や、どのようなメンテナンスの実施が予定されているかについて、ゴルフ場従業員全員によって、より良い情報を提供することが可能になります。デトロイトのカントリークラブでは、ゴルフコースグリーンキーパー、ロス・ミラー氏をはじめとする各部門のマネージャーが、ゴルファーとコミュニケーションをとる際に「なぜ」に焦点を当てた戦略を採用しています。彼らの目標は、定期的なメンテナンスの実践やコースの状態に関して、従業員と指導的立場にあるゴルファーの間で共通した理解を深めることです。
ミラー氏とコース管理チームは、常に最初のコミュニケーション実践者になれるわけではありません。ラウンドの前後にゴルファーと接することが多い他部門の従業員に、ゴルフ場でどのようなメンテナンスが行われているかを理解してもらうことで、コース管理チームの活動範囲を広げることができます。ゴルファーからの質問に的確に答え、コースで何が行われているかについての誤解を解消することができます。目標は、正確な情報をゴルファーに届けるために、すべての部門間の相乗効果を発揮できる仕組みを構築することです。
指導的立場にあるゴルファーは、他のゴルファーからメンテナンス方法やプレー状況について質問を受けることが多いため、この戦略に含まれます。情報を共有することで、質問されて答えを探さなければならないのではなく、すぐに回答することができます。
ミラー氏は、すべての部門のマネージャー、中間管理職、取締役会メンバー、グリーン委員会メンバー、ゴルフ委員会メンバーに毎日電子メールを送っています。このメールによって、従業員側と会員側の意思決定者は、どのようなメンテナンスが行われているのか、どのような状況が予想されるのかを十分に知ることができます。ミラー氏は通常、このEメールの作成には毎日5分ほどで済んでいると言います。
ラウンド後に食事を楽しんでいるゴルファーが、ゴルフコースのメンテナンス方法について発言した場合、クラブハウスで働いている従業員が、なぜそのようなメンテナンス方法が行われているのかを説明することができたことがありました。もしこの従業員がその日のうちにミラーが用意したメールを読んでいなかったなら、あるいはそのメールが提供されていなかったら、ゴルフ場で何が行われている事への誤った認識をゴルファーが持ち続けていたことになります。このやりとりは、ゴルファーの理解を得る上で有益なものであり、また、ゴルファーが施設を訪れている間に最高の体験をしてもらうための部門間のコミュニケーションが行われていることを示しています。
今後、ミラー氏は、ゴルファーが関心を持つ可能性の高い芝に関するタイムリーな話題に焦点を当てたメールを隔週で追加することを検討しています。目標は、ゴルファーがゴルフコースで行われているメンテナンス方法について理解を深めるために、さらなる相互理解の場を提供することです。これは、USGAグリーンセクションの記事から、コースコンディションに関する話題に関連したコンテンツを共有するだけでもいいし、メンテナンスチームが作成したコンテンツであってもいいのです。
まとめ
ゴルフシーズンごとにゴルフ場のコンディション作りへの期待が高まる中で、ゴルファーや意思決定者と効果的にコミュニケーションをとることの重要性は、過大評価されることはありません。提供される情報は、人々に農学的プログラムについての情報を提供し続けるために非常に役立ちます。また、効果的なコミュニケーションは、誤解が広まったり、問題になる前に対処する機会にもなります。グリーンキーパーは、事実を伝え、ゴルファーを教育する(理解を得る)ことが重要です[記事は教育するという表現です]。
ゴルファーとのコミュニケーションにおける教育とフィードバックの両側面は紛れもなく重要ですが、関係構築の要素を見落とさないようにしてください。
ゴルファーとのコミュニケーションの教育とフィードバックは疑う余地のないほど重要ですが、関係構築の要素を見落としてはいけません。グリーンキーパーは農学の最先端の知識を持っていても、コミュニケーション能力がなければ成功は難しいでしょう。
ゴルフ場のメンテナンス業務を成功させている背景に、ゴルファーとのコミュニケーションを優先させていることがあるという点は偶然ではありません。このコミュニケーションがどのように行われるかはコースによって異なります。グリーンキーパーだけで、コースの状況やメンテナンスプログラムについてコミュニケーションをとることはできませんが、デトロイトのカントリークラブで実施されたように、ゴルファーに十分な情報を提供できるような全コースのコミュニケーション戦略を開発するために、グリーンキーパーが率先して指揮をとるべきです。
コミュニケーションの重要な側面として、これまで言及されてこなかった「ありがとう」という言葉の影響があります。ネガティブなフィードバックに対しても、お褒めの言葉に対しても、この言葉は印象に残ります。以上、この記事をお読みいただきありがとうございました。