ゴルフ場マーケットの規模を考える公式のようなものに「ゴルフ人口×平均ラウンド数=総利用者数」があります。これに平均客単価を掛ければゴルフ場の市場規模が推計されます。ここで登場するゴルフ人口やラウンド数、客単価の平均を知ろうとすると、統計となります。分かりやすいところでは、アンケート調査のようなサンプリング調査による数値による把握が必要になります。ゴルフ場単独であれば、端末のキーボードをポンとたたけば、利用者数や客単価などは簡単にはじきだしてくれますが、ゴルフマーケット全体を見ようとしたときに、ゴルフ人口は何人?となると、“分かりません”となってしまいます。唯一利用者数はゴルフ場利用税の関係から100%の補足ができています。非課税利用者の人数も特例措置であり人数をカウントしてくれますから、さすが完璧な役所仕事です。しかしこの人数は延べ利用者数です。とりあえず、1人平均の年間利用回数を10回として、割ると2021年の速報値(約9000万人)だと先ほどの公式からは、ゴルフ人口900万人となります。ちょっと待って、900万人は多いような? レジャー白書2021の平均活動回数は14.9回だから、この回数からは約600万人というゴルフ人口になります。この数字、他の調査結果からすると結構いいところなんです。ただレジャー白書のゴルフコースの人口は520万人ですから、80万人もの大きな差があり、その差を誤差とすると誤差率は13.3%となります。

1.レジャー白書のデータまとめ

 ゴルフに限らず長期にわたって余暇(レジャー)に関する統計を取ってきたのがレジャー白書です。

 レジャー白書の調査方法とサンプル数は、①調査対象:全国15~79歳男女、②有効回答数:3,246、③インターネット調査、④調査実施時期:2021年1~2月 です。ちょっと期間長めで2005年からのゴルフ人口に関するデータを表1にまとめました。ザーッと数字を追ってください。レジャー白書はサンプル数が少なめで、多くの情報が読み取れるわけではありません。例えば今回まとめた人口の正確性を求めるよりは、トレンドをみるためのデータと理解すべきで、ゴルフ人口が少ないといった疑問に悩むことはないということです。あくまでも流れを把握する統計データです。図1に人口をグラフにしました。ゴルフ人口のトレンドは右肩下がりの傾向が続いていることへの理解が第一ということです。しかし、レジャー白書の人口データが間違いかというと、冒頭に誤差13.3%と書きましたが、要は誤差をどう判断(理解)しているかの問題です。絶対に正確であるためには、国勢調査のように全数調査が前提になります。これは相当な費用と手間が前提です。コストパフォーマンスを考慮すれば、確率的にほぼ正しい結果が予測される統計手法に沿った調査を行うわけです。どれだけの対象規模の調査に対して、信頼度と誤差を考慮したサンプル数があります。内容は別項「統計データの見方、読み方」をご覧ください。

 レジャー白書のゴルフコース参加率5.3%から逆算するとゴルフコースでのサンプル数は172です。

2.スポーツ庁の「スポーツの実施状況等に関する世論調査」のデータまとめ

 スポーツ庁が平成28(2016)年から実施しているスポーツの実施状況に関するアンケート調査が「スポーツの実施状況等に関する世論調査」です。サンプル数は2万です。性別、10歳刻みの年齢世代別のデータとして集計されていることから、男女別、年齢世代別のゴルフ人口が推計できるデータです。ただし、例えば女性のデータをさらに深く分析しようとするとデータ数の関係から誤差(標本誤差)は10%を考慮する必要があり、女性だけを見るバイはあくまでも全体の傾向を見る程度と理解しておく必要があります。人数による把握ではなくて、何歳の世代で増加傾向が現れているといった程度の理解は正しいということです。また、ローデータ(RAW)が公開されていますから、年齢を10歳刻みではなくて5歳刻みで細かく集計はできますが、統計の設計が10歳刻みであることから、正確な分析とはなりません。これは統計のお約束事です。後述する社会生活基本調査は5歳刻みのデータが集計されていますから、年齢別の5歳刻みデータをご希望される方は今年(2022年)9月頃に発表予定の公表をお待ちください。

 2016年から2021年までの性別、年齢世代別のゴルフコースと練習場の参加率(回答率)と推計人口を表2にまとめました。図2と図3はゴルフコースと練習場の推計人口グラフです。最初の2年と2018年以降でデータの連続性が切れています。これは調査実施機関が変更されたためで、関連性を説明できる情報はありません。この点は留意してください。

 ゴルフ人口についてですが、最初にゴルフ場利用者数をレジャー白書の活動回数で割ると約600万人になると書きましたが、2021年のスポーツ庁のデータから推計されるゴルフ人口は588万人になります。スポーツ庁の調査はたぶん標準誤差3%の範囲にあると考えられます。正確に表現すれば、ゴルフコース人口は570万から605万人の間にあるはずとなりますから、ほぼ600万人と書いてもまちがいではないわけです。

●2021年のゴルフ人口をさらに詳しく

 2021年のゴルフ人口を再掲載して、人口ピラミッド図にしたのが図4~7です。参加率と人口をそれぞれグラフにしましたのは、30代でゴルフ参加率は高いのですが、人口では30代より参加率の低い40代の方で人口が多いという現象が現れます。これは、算出基準の人口が40代で多いためです。30代の世代ではゴルフは前後する世代の中では高いのですが、人数では40代に及ばないという、少子化の現実の姿がゴルフ人口にも現れているということになります。人口が増えている時代は、参加率の高さが直接ゴルフ人口の増加に結び付いていましたが、少子化が進んでいる現状では参加率と人口の両方に注視する必要があるということのようです。

 次に紹介する社会生活基本調査は、ゴルフ人口をゴルフコースと練習場の区別をしていません。従来は、ゴルフコースと練習場の利用人口を分けるための材料がなく、こんなものかなという感覚的な経験値でモノを言っていたわけですが、スポーツ庁の公開データは集計されたまま加工していないローデータが提供されていることから、ゴルフコースと練習場、両方を利用しているゴルファーの区別を把握できます。サンプル数はゴルフコースが1,233、練習場が1,118で、どちらかでゴルフをしたゴルファー(社会生活基本調査の基準)は1,486です。このサンプル数は、ゴルファー全体として捉えるには十分な±3%の標準誤差の範囲と考えられます。社会生活基本調査の基準で推計されるゴルフ人口は709万人です。9月に発表される社会生活基本調査のゴルフ人口が688万~730万人の間の数字であれば、スポーツ庁のデータの信ぴょう性が高くなるのですが、さあどうでしょう。個人的にはこの幅の中に納まっていると思っているのです。

3.社会生活基本調査のデータまとめ

 社会生活基本調査は国勢調査と合わせて5年ごとに実施されている大規模な統計調査です。調査は20万世帯対象で、前回実施の平成28年はサンプル数が17万9,297でした。18万サンプル近い統計調査ですから、調査の精度はスポーツに関する調査としてもこれ以上のものはありません。2001年から4回分のゴルフ人口に関するデータを表4にまとめました。

 社会生活基本調査で注目されるのは、5歳刻みの調査設計になっていますから、一番関心の高い団塊の世代のゴルフ人口の推移が追えるわけです。ゴルフトレンドをリードしてきた(はずの)団塊の世代が75歳以上の後期高齢者世代へと移行しますが、今後、少なくとも5年程度を占う上では団塊の世代の人口は気になるところです。少子化でゴルフも例外なく人口減少の影響を受けるはずです。健康寿命の延伸が云われていますが、ゴルフは適度な運動量で、かつグループで楽しめるスポーツです。高齢者ゴルファーにさらに元気でゴルフを楽しみ、人生を謳歌してもらうことでゴルフマーケットも持続可能な発展を続けられるとつながるわけです。健康の維持がゴルフでできる(スウェーデンの研究ではゴルファーは運動をしない人より5年長生きすると報告されています)ことは、ひっ迫する医療・介護等の社会保障費の抑制にもつながるわけで、ゴルフは、スポーツ庁だけでなく、厚生労働省、産業レベルで経済産業省、財政面で財務省のお墨付きをいただいてもいいのではと思うくらいです。

 表4に団塊の世代ゴルファーの変遷を分かりやすく表示しました。同じ条件のグループの動きを追うコホート分析というやり方です。2016年時点で団塊の世代ゴルファーは65~69歳のグループです。2001年時点で50~54歳の世代にあった彼ら/彼女たちは歳を経るごとに人口を、実は減らしてきています。2016年の人口は2001年時点の6割弱です。団塊世代に限らず、現在の40歳以上の世代でゴルフ人口は減少を続けてきています。非課税利用者数の伸びから高齢者ゴルファーは元気! 高齢化した団塊の世代がさらにマーケットを引っ張っていってくれると期待し、見たい状況を思い描くのですが、人口は確実に減少しています。たぶん、高齢者はラウンド回数を増やしていると期待しますが、これとて裏付けるデータを業界は持っていません。ゴルフ人口の把握も他人頼りです。一方で、データからは若い世代でゴルフ人口が増えてきていますが、10代から20代にかけてゴルフを始めるきっかけがあるということだと思います。英米等で取り組まれている若年層でのゴルフを始めるきっかけ作り支援の充実が必要なのかもしれません。ココは研究課題だと思います。結果だけを見ていればよかった時代はとっくに終わっています。将来のビジョンを業界で共有して、実現する取り組みこそがゴルフマーケットの将来を確かなものにしてくれると思います。少なくとも説明できるエビデンス=数字は最低限必要です。以下、図11~14は5歳刻みのゴルフ人口の推移を表したものです。団塊の世代の動きも分かるように色分けしてあります。また各5歳刻みの世代だけの動きも図にしました。

 以上、ゴルフ人口に関する公的に認められているデータをまとめました。皆さまの参考になれば幸いです。

喜田任紀

By 喜田 任紀

月刊ゴルフマネジメント前編集長、一般社団法人関東ゴルフ連盟グリーン委員会参与

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください