ファッドかブームの到来なのか

 一般社団法人日本ゴルフ場経営者協会(NGK)から2021年度のゴルフ場利用者数が発表されました。2021年3月~22年2月期(税収の関係)に、ゴルフ場利用税課税対象ゴルフ場2,207コースで8,969万3,880人の利用者数を数え、対前期比で834万6,927人増加し、率で10.3%という1974(昭和49)年以来、約50年ぶりの2桁増という高い伸びをみせました。ゴルフ場数については、隣県にまたがるゴルフ場が18場あることからゴルフ場数の時数は2,189場となります。1コース平均の利用者数も4万641人と1997(平成9)年以来の4万人を超える利用者数です。

  • 利用者数のデータは以下を参照してください。

<ゴルフ場利用税の課税状況から見たゴルフ場の数・利用者数の推移(2022年10月)>

■コメントはこちら 日本ゴルフ場経営者協会 専務理事 大石順一

 利用者数の大幅な増加は強いゴルフ需要を反映したものと考えられますが、問題はこの増加をどう捉えればよいかです。増えた因果関係が説明できれば、利用者数を伸ばした原因(理由)に対応すれば、持続的な需要を期待できることになるはずです。たくさんの要因が関係しているはずですが、問題はその主要な原因が、ゴルフそのものに起因するものなのか、ゴルフ以外の新型コロナ感染症の蔓延拡大やその他の経済などの要因を原因としているかという点です。

図1

 増加についての大方の説明は、NGKの「新型コロナウイルス感染拡大による様々な行動制限や精神的ストレスへの反動現象であり、加えて、広域移動を行わずに感染リスクの低い自然環境の中で家族や仲間と楽しめるレジャースポーツとして、ゴルフが評価された結果と思われます」とい説明に代表されると思います。また、感染防止対策が大きく貢献したとも考えられますが、withコロナが一般化すればいわれているゴルフの有意性は薄まると考えられます。ゴルフ場利用者数の2桁増をゴルフそのもの有意性で説明されるのであれば、ゴルフマーケットの優位性は持続できることになります。しかし、やはりコロナ特需の要素は大きいと考えると、さてと、果たして現状が持続すると期待してよいものかと悩みます。ただし、環境さえ整えられればゴルフ場利用者数は増えるということにもなる結果ですから、期待をしたい数字ではあるわけです。

 日本は少子高齢化と人口減少の進行で人口減少社会の到来という社会構造の変化が起きています。成熟したゴルフマーケットの今後が気になる中で、マーケットの現状をどう見るかは重要なテーマです。ここは経験値だけで考えるのではなくて、専門家の知恵が欲しいところです。

個人的な備忘録として覚えておきたい言葉
●ユリウス・カエサルの言葉 「人間ならば誰にでも、現実の全てが見えるわけではない。多くの人たちは、見たいと欲する現実しか見ていない」(ローマ人の物語等、塩野七生著)
●ドイツの名宰相であるオットー・ビスマルクの言葉 「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」
●哲学者カール・マルクスの言葉 「歴史は繰り返す」(ローマの歴史家クルチュウス=ルーフスの言葉だそうです)
●アメリカの作家マーク・トウェインが言ったとされる有名な言葉 「歴史は繰り返さないが、韻を踏む」(同じ繰り返しはないが、似た状況は起こる:こんな意味だと思うのですが・・・)

状況を知るには定性的と定量的の両面からのアプローチが必要

 図1は、昭和32年からの利用者数とゴルフ場数、1コース平均の利用者数のグラフです。一目で過去から現在までの流れが分かるのですが、今回の大幅な増加を、果たして一時的な現象(ファッド)と見ればよいのか、ブームの再来と捉えてよいものか、考えどころです。まず現状分析ですが、利用者数の動き(トレンド)が上向きなのかどうかですが、手近な分析機能としてEXCELに近似曲線を描く機能がります。難しいことは考えずに、らしいと思うグラフを選んで、クリックすればあっという間に近似曲線が描けます。曲線といいながら直線のグラフもあります。現在の状況では、永遠に右肩上がりでプレー需要が増加しないだろうと私でも分かりますが、ゴルフマーケットは昭和30年代から2桁増が続いていた昭和40年代までのグラフは直線的な傾向線で説明できます。問題は、今回の2桁増の後です。どう判断されますか。

 グラフによる見える化の作業でよく使われるのが一定期間(普通は月別とか期別)の平均で流れを追う季節変動要因を調整する方法です。利用者数の変化には、天候などの自然要因が影響していますから何カ月か何期かの平均で流れを追って、状況判断の材料にします。景気変動の波があるといわれますから、何年かの平均値で状況を見るわけですが、この方法でゴルフ場の利用者数を5年の期間で調整したのが図1の破線で示したグラフです。1992(平成4)年日本経済はバブル崩壊となるわけですが、ゴルフマーケットはこの年にピークアウトし、翌93年から利用者数の減少が始まります。実数のグラフと季節変動グラフを見比べていただくと、ゴルフマーケットの好不況感を理解いただけると思います。最近10年間の好況とも不況とも取れない状況がグラフからも分かると思います。そして2021年に利用者数がグーンと伸びたわけです。業界としてはブームの再来を期待したくなるのですが、たぶん社会構造の問題などを考慮すればブームの再来ではなくて、一時的な現象(ファッド)と考えるのが、当たってるのかなという判断にはなるのですが、決定打はありません。

 米国のNGF(米国ゴルフ財団)では、数字で捉える定量的なデータとアンケートやインタビューなどによる人の意見、感覚を捉える定性的なデータの両方からのアプローチを行っています。日本は、十分なデータがありません。もう一つ考慮しなくてはいけない点として、相関関係と因果関係という二つの側面からの判断です。ゴルフ人口が減少する中で、ゴルフ場の利用者数が増えました。ゴルフマーケットの規模を説明する公式として「ゴルフ人口×1人平均のラウンド回数(×消費金額)」があります。レジャー白書を見ていただいてもこの数値が基本となっています。利用者数はゴルフ人口とプレー回数で説明されますから、人口が少なくなればプレー回数が増えない限り利用者数は増えない。では、ゴルフ人口と利用者数の関係だけを考えると、ゴルフ人口の減少が利用者数の増加を生むことは他の要因(ラウンド数の増加)が関係しない限りありえないわけです。またラウンド回数と利用者数も同じことが言えます。ゴルフ人口と利用者数には相関(正負)関係はあると考えられますが、ゴルフ人口が減少することで利用者数が増えたという結果に因果関係があるとは言えないわけです。ラウンド数も同じです。起算ベースの一つであるゴルフ人口が減少すれば、その減少を補う以上のラウンド回数がなければ利用者数は増加しません。関係性はあるが状況を説明には不十分であり、問題解決には因果関係を考える必要があるというわけです。ゴルフマーケットの持続的な成長を図るなら、単純にゴルフ人口を増やせば良いというわけではなく、利用(回数)を増やす環境の整備も行わなくてはいけないということです。

「2桁増は記録的な数字」への理解

 次は図2です。増減率だけを見ると2021年の伸び率は繰り返しになりますが高いです。

 過去から学べることは、第3次ゴルフブームや第4次からバブルまでの好況を呈した期間でもこの間の利用者数の増加率は9.4%、9.5%でした。あの予約を断るのが仕事といわれた時期の増加率が2021年より低かったのです。バブル崩壊後の30年間低空飛行していたゴルフマーケットが、突然2桁の伸び率になった。昭和40年代後半までの時期は急速に量の拡大が始まり、オイルショックで伸び率という点ではブレーキがかかりましたが、母数であるゴルフ場数や利用者数が大きく拡大してきましたから、昭和50年代以降の伸び率はこの程度だったわけです。それが、2桁増の伸び率となった。冷静に見られている関係者もいらっしゃると思いますが、やはり、さてと考えてしまいます。

図2

因果関係の解明とロジックの構築

 図3には、いろいろ試した結果の6次多項式による近似曲線を記入しました。先の移動平均とほぼ同じようなグラフになり、現況を説明するグラフのようで、数値(定量的)に説明しようとすると6個も要因が考えられるわけです。利用者数に関係する要因として、ゴルフ人口やゴルフ場数、可処分所得、GDP等などいろいろ考えられるわけですが、それらの要因で関連性の高いものを選び出して、多項式を完成できればそれぞれの要因が特定され、その要因に対して利用者数対策の立案ができると思います。

 そして仮説を立てて検証する、マーケティングの基本ですが、業界全体でゴルフ振興に取り組むのであれば、感性というか定性的な発想だけでなく、説明できる定量的な発想でゴルフマーケットを考える時期だと思うのです。この作業は、市場活性化に向けてのロジックの構築からですから手間も時間もかかると思います。どう考えてもR&Aやイングランドゴルフ協会などの英国を中心とするゴルフ団体、USGAなどの米国のゴルフ団体の活動を見ているとゴルフマーケティングのロジックが確立されているように思えます。日本にもロジックが必要です。

図3

By 喜田 任紀

月刊ゴルフマネジメント前編集長、一般社団法人関東ゴルフ連盟グリーン委員会参与

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください