Simulation
予測される令和のゴルフ場入場者数
想定入場者数からゴルフ市場活性化への取り組みを考えよう
喜田任紀
2018(平成30)年度のゴルフ場入場者数は8487万4869人でした。前年度と比較すると66万2739人少なくなり、減少率は0.77%でした。減少しましたが微減です。ゴルフ場数は、2018年は2248コースで9コース少なくなりましたが、率では0.4%とこちらもわずかな減少だといえます。少子高齢化が進み、人口減少社会の到来が叫ばれ、ゴルフマーケットにもマイナスの影響が出ると懸念されています。しかし見えてくる減少数はわずかで、率にすると5%未満の落ち込みで、減少した翌年にはぶり返しもありプラスに転じる年もあります。数パーセントの幅で増減が繰り返されているような感覚になりがちですが、10年前と比較すると591万1000人の減少で、減少率は6.5%です。
市場規模の縮小が起きているわけですが、市場原理も働いており、ゴルフ場数は10年間で194コースが市場から撤退し、ゴルフ場数は7.9%少なくなっています。減少率の差は1コース当たりの入場者数の改善という結果を生んでいますが、入場者数の減少が続く限りゴルフ場数の減少という市場圧力が働き、一見、1ゴルフ場で考えると経営環境が改善されているような錯覚に陥りますが、負のスパイラルに陥ったマーケットは、減少を繰り返すだけです。この動きを止めるのは、需要の創造しかありません。需要創造はマーケティングの実践しか対策はありません。今ある需要層のニーズに応えるだけでは市場規模の拡大はできません。
まず、ゴルフ市場が置かれている現状について理解を深めたいと思います。現状のまま推移するとゴルフ場の市場規模はどうなるのか? この結果は、ゴルフ場だけでなく、ゴルフ場がゴルフというサービスの最終消費地であると考えると、ゴルフ場の市場規模の縮小は、ゴルフマーケットの縮小に他ならなりません。
ちょっと冒険ですが、令和の時代のゴルフ場入場者数を予測しました。結構、厳しいですよ。
減少する人口と少子高齢化からゴルフ場の入場者数を考える
分析を進める上で、説明データとしてはゴルフ場入場者数のデータと日本の人口を用いました。少子高齢化の実態の説明には、ゴルフ場利用税が掛けられている結果、正確な把握だけでなく、2003(平成15)年に始まった非課税措置によって少子高齢化の関係を示すデータが揃っています。年間でデータがそろっているのが2004(平成16)年ですから、この年以降の入場者数を対象としました。
対照データとした日本の総人口は、2008年の1億2808万4000万人をピークに、2011年には1億2800万人を割り、人口減少社会へと突入しました。少子高齢化という人口構造への転換が始まったわけです。
ゴルフ場利用税の非課税区分は①18歳未満と②70歳以上、③国体等及び授業での利用に分けられていますが、③はだいたい11万から12万人で一定していることと年齢区分が不確定ですから、計算対象から外しました。課税対象年齢層(18~69歳)ですら、日本の人口を18歳未満、18~69歳、70~84歳で集計して、ゴルフ場利用人数の対照人口としました。総人口でも相関をとりました。まず1957(昭和32)年から2018(平成30)年までの入場者数を図に示しました。
ゴルフ場利用者数は、[ゴルフ人口×プレー回数]で説明できます。計算のもとになるのは日本の人口ではなくてゴルフ人口ですが、元は総人口の何パーセントかがゴルファーですから、人口との関係性は強いものがあります。
ところで、ゴルフ人口が減少しても、1人当たりのプレー回数を増やせば、トータルとしての延べ利用者数は増えます。ゴルフ市場活性化の対策の一つは、この1人当たりのプレー回数をどう増やすかという対策課題になります。
同時に考慮しなくてはいけないのは、プレー需要の中心が個人需要に移ってきたことで、ゴルフマーケットを考える上では個人の可処分所得との関係が重要になっている点です。伝票を経理に回せば何とかなった時代が懐かしいですが、家庭の大蔵大臣はそう簡単には口説き落とせません(ま、奥さんをゴルファーにしてしまえば、理解は得やすいでしょうが)。簡単にプレー回数を増やしてもらうわけにはいきません。ここは、ゴルフ業界にイノベーションが求められるところです。
ところで、ゴルフ業界のイノベーションといえば、2018年にUSGAが日本でイノベーションをテーマにシンポジウムを開きました。USGAが言いたかったイノベーションは、産業構造を人口構造の変化に対応させて、持続可能なゴルフ市場に転換するための改革(考え方)だったと思うのです。
SDGs(持続可能な開発目標)というテーマが、日本でもこれからクローズアップされることになりますが、ここで「持続可能なゴルフ場マーケット」とはどのような市場かを考えてください。ゴルフ市場が縮小しない産業構造はどういう構造なのか? 日本の人口が大きく減ろうとしている中で一定程度の産業規模を維持しようとするなら、その一つとしてプレー単価をできるだけ安くして、プレー機会(回数)を増やす仕組みづくりが構図として描けるはずです。ゴルフ場としてはさらに効率経営が求められるわけですが、AIの導入、無人の管理機械などの導入・活用で人が介在しなくても必要なサービスが提供できる仕組み作りと人が介在することで評価されるサービスとの区分を明確化して効率的な経営体質作りが求められることになります。たぶん、USGAが言いたかったイノベーションとは、こういうことだったのではなかったのかと思います。どうも現場における現象面に目がいってしまい、目的と方法を取り違えたというか、一緒くたに解釈したように思います。それとイノベーションとレノベーションとの違いを明確にする必要があります。これは専門家にお聞きください。
[ゴルフ人口×プレー回数]の式に[1人客単価]を掛ければゴルフ場の市場規模になります。[当たり前の計算式ですが、頭の整理のために必要です]
高齢者層のプレー需要はこうなる
日本の人口構造が変わるわけですから、人口減と少子高齢化の影響を必ず受けます。ゴルフの場合、普通に現在のゴルフ人口の構造を考えると団塊の世代が70歳以上の世代に移行するわけですから、高齢者が元気でゴルフを続けてくれることで安定した需要層をゴルフマーケットは持つわけです。比較的高い年齢までゴルフを楽しんでいただけると期待できます。そのためには、高齢者が継続してゴルフを楽しめる環境整備が不可欠です。
例えば、ある関係者が、「USGAのハンディキャップシステムでは9ホールでハンディキャップの申請・取得ができるのですが、JGAは対応できていないんだそうです。2020年からワールドハンディキャップに移行するわけですが、どうするのですかね? 当然、USGAと同じになるんでしょう、ね」という指摘をされていましたが、高齢者対策としては当然9ホールプレーにHDCP制度も対応すべきです。と、日本で取り組むべき高齢者対策はたくさんあります。多様なティグラウンドの設置も同じことです。
さて、この高齢者(分析のため70歳から84歳に分類しました)のプレー需要はどう変化するでしょうか?
下の図は、2014(平成16)年から2018(平成30)年間の世代人口(X:横軸)と入場数(Y:縦軸)の関係図です。確実に右肩上がりの成長線は直線的に上へと延びています。これがいつまで続いてくれるかが大きな関心事です。18歳未満と18~69歳の課税者人数を説明した後で、令和10年までの予測利用者数のグラフを示します。それまで少し説明にお付き合いください。
高齢者の人口と利用者数の関係式は、y=2.3343x-30425です。決定係数R2は0.9904で、これは大いに関係しているという数値です。高齢者の入場数は人口に正比例します。増えれば増えるだけ多くなるというわけです。継続してゴルフをしてもらうためには、プレーしやすい環境整備が大変重要ということです。グラフ中の数字は該当年(平成)です。
若年層は人口対策だけでは難しい
次は、次世代を担う若年層です。18歳未満の入場者数と人口との関係図は以下です。
最近の減少傾向から見た入場者数と人口の関係式はy=0.0559x-437.82です。R2は0.6746です。正の相関関係はあるが、高齢者のケースほど高くないということです。若年層は人口要因以外にポイントがあるようです。
実は関係式が2次関数で、説明が難しい。人口が減る中で増えて減ってきているわけですから、難しい。そこで、22年以降で関係を見たのが次の図です。
18~69歳の中核世代はどうなる
最後は、主要需要層である18歳から69歳の課税対象層です。まず図を見て下さい。
人口は確実に減少を続けています。利用者数も人口の減少に連れて少なくなっています。関係式は、y=2.1299x-106043です。R2は0.8742ですから、高齢者ほどではないが人口との関係性は高いと言えます。団塊の世代と比べて世代人口が少ない層が以後続くわけで、将来の団塊の世代のゴルフからのリタイア(量)の補填を考えれば、この世代でゴルファーを増やすことが次世代対策ということになります。この世代では、年齢、性別、ライフステージ(就業、結婚)などセグメントを明確にして、対象を絞った対策の実施が必要です。これは、R&Aが積極的に進めている対策の一つです。
令和の時代はこうなる
高齢者、18歳未満、課税者の三つの対象別に人口との関係で入場者の特性を分析してきました。文中に示した関係式で算出したそれぞれの層での予想される利用者数を合計して令和元年から10年間の入場者数を示したのが次の図です。総人口で見た場合がグレーの線です。ほとんど同じ動きをします。
黄色の線が2018(平成30)年までの実数です。赤で示したのが紹介してきた数字を合計した予測入場者数です。現状のまま、言葉を換えれば、業界としてゴルファーを増やす対策に取り組み、ゴルフをプレーしやすい環境の整備を進めない限り、下図のようなカーブを描いてゴルフ場の利用者数が減少する可能性は高いと言えます。あと10年で7250万人くらいまで減少することになる。この時、ゴルフ場数が2000コースであると、1コース平均の入場者数は約3万6000人です。ゴルフ場がいまより200コース以上減っても客単価は今以上に安くなっているでしょうから、経営面でも対策なしであれば収支は厳しいでしょう。あくまでも平均の話です。