現代のメンテナンススタッフ育成法
全国のゴルフコース管理者は、ゴルフ場のメンテナンス業界が直面する労働課題にどのように適応しているのだろうか

2020年3月6日
アダム・モーラー、グリーンセクション教育ディレクター

コースメンテナンスに利用できる労働力は、毎日の管理レベルに直接影響する

 今日の多くのゴルフコース管理者(Superintendent、スープリ)にとって、信頼できるメンテナンススタッフの雇用と育成は、ゴルフシーズンに向けた最大の関心事です。必要なメンテナンススタッフ確保することは、人件費の上昇も加わり年々厳しさを増し、スープリは日々のコース管理作業の調整を余儀なくされています。利用可能な労働力はコース管理に直接影響するため、人員不足が深刻な懸念事項となっていることは理解できます。
 メンテナンススタッフの育成が過去数年と比べより困難になっている理由については多くの説がありますが、それらの問題に捉われると逆効果になる可能性があります。そこで、この記事では、今日の厳しい労働市場の中で、スープリが高品質で信頼性の高いメンテナンスチームを構築するために使用しているさまざまな戦略を取り上げました。

競争力のある賃金
 有能でよく訓練された従業員は貴重な財産であり、適切な給与を支払うことが重要です。残念ながら、年間および季節雇用のメンテナンススタッフの平均時給は、競合する他の多くの業界よりも大幅に低くなっています。その結果、多くのスープリは、雇用している従業員の離職を止めることが難しい主な理由として、人件費の上昇と他の業界との競争を指摘します。確かに賃金は、誰にとっても就職を決める重要な要素であり、競争力のある賃金を支払うことが重要です。毎年新規および既存のスタッフに支払う時間給の着実な増額は、最低賃金の上昇や他の業界との競争に勝つために役立ちます。

全米の平均時給(注:右端がゴルフ場メンテナンスの時給水準)

 競争力のある賃金に加えて、スタッフに提供される福利厚生は、雇用とその維持のために需要なツールです。ノースカロライナ州コーネリアスのザ・ペニンシュラクラブのゴルフ場施設管理ディレクターであるジャレッド・ネミッツ氏は、スタッフと賃金について話し合う際に健康維持のための福利厚生について全員に説明しています。「私たちが提供するヘルスケア、歯科保険、退職プラン、食事手当、その他の多くの給付の価値は、時給だけで仕事を比較するときに見落とされがちです。誰もが自分の福利厚生の報酬価値を理解することで、1時間あたり1ドル余分に得られる仕事を辞める可能性は低くなります」とネミッツ氏は述べています。
 残念ながら、競争力のある賃金と福利厚生を提供する多くのコースは、彼らの求人数を埋めるのに苦労しています。同業者にとっても、人件費の上昇は選択肢ではありません。このような状況では、生産性と効率を改善する戦略を採用する―例えば、3連のグリーンモアや乗用バンカーレーキを使用して、重要でないエリアでのメンテナンスを低減することは、少ない人数のスタッフでより多くの成果を得る良い方法です。しかしながら、メンテナンススタッフ人数の削減を余儀なくされた場合、スタッフへの支払いを増やすことは良い選択です。

パートタイムスタッフ
 多くのスープリは、ゴルフ場業界が直面する労働課題を克服するために、常勤職の人数を減らし、パートタイムのスタッフを増やしてきました。カリフォルニア州メンロパークのシャロンハイツゴルフアンドカントリークラブのスープリであるジョシュ・ルイス氏は、この数年間でより多くのパートタイムスタッフを採用し、良い結果を残しています。「午前中のメンテナンスに対応できる従業員を増やすことは、パートタイムの従業員を増やすことでの対応が理にかなっています」とルイス氏は話します。パートタイムスタッフが増えれば、週末のメンテナンス活動にも対応できます。これにより、スープリは、最も重要な曜日に最高のプレー条件を作り出すという柔軟性を得ることができます。
「この地域の多くの人々は、生活費を確保するために複数の仕事に就いていますから、メンテナンススタッフの仕事は一部の従業員にとって中心的な仕事ではないという発想が出てきています。これ点を意識して、より多くのパートタイムのスタッフを雇用することで利益が得られました」とルイス氏は述べています。
 より多くのパートタイムスタッフを雇用することで、大幅なコスト削減も得られました。以前、ニュージャージー州ケープメイにあるユニオンリーグナショナルゴルフクラブのスープリであったスコット・ボルドナー氏は、2011年の総従業員数は24人でしたが2019年には32人に増やせました。ボルドナー氏の計算では、32人の従業員の総労働時間は22人の正社員と同等でした。ボルドナー氏が変更したことで、メンテナンス効率が最大になり、素晴らしいゴルフ経験が得られ、平均で8万ドルの人件費が削減されました。
 より多くのパートタイムスタッフを採用することの成功の鍵は、中心となるフルタイムスタッフへの適切なトレーニングと管理監督です。

柔軟な勤務スケジュール
 最近まで、ゴルフ場業界では柔軟な勤務スケジュールはほとんどありませんでした。4時間と6時間の交代制または短い労働の週を設けることが一般的でした。新しい勤務スケジュールは、従来、コースでの作業に興味がなかったかもしれないないパートタイム従業員の就労機会を提供することになりました。
 オクラホマ州タルサのサザンヒルズカントリークラブでは、スープリのラス・マイヤーズ氏が季節雇用スタッフの採用という機会が増えていることに気づいていました。マイヤーズは、ボルドナー氏と労働上の課題について話し合い、ボルドナー氏は、彼が高校生を季節スタッフとして雇うことを奨励しました。
 マイヤーズ氏は地元の高校の指導カウンセラーと話を進めると、学生は季節雇用に関心があることに気づきました。過去3シーズン、マイヤーズ氏は、仕事をより魅力的にするように勤務スケジュールを調整することで、高校生の季節雇用スタッフ採用は大きな成果を上げました。「私たちは通常、毎年夏に季節のスタッフを過剰に雇用しています。季節雇用スタッフは、週24時間から30時間、通常は午前6時30分から午前11時までしか働かないことから、高校生を採用することで夏の管理を成功させることができます」とマイヤーズ氏は話しています。季節雇用スタッフを過剰雇用するということは、休暇や病気という事態が起きても、コース管理に大きな影響は出ないことを意味します。マイヤーズ氏は、高校生の信頼性は高く、元気であり、そのことがスタッフ全体をポジティブな雰囲気にしてくれていますと述べています。
 マイヤーズ氏によると、この高校生の採用は、サザンヒルズで成果を上げていますが、新しい課題がないわけではないようです。高校生や大学生の雇用は、彼らが学校で授業を受ける春と秋に人員配置上の問題があることを意味します。トレーニングも非常に重要です。新しいスタッフの場合、スープリは機器の操作と多少の熟練を必要とするが学習効果に期待をします。マイヤーズ氏によると、季節のスタッフに高校生を雇うことのメリットは、解決しなければいけない課題をはるかに上回っています。

柔軟な勤務スケジュールの採用は、ゴルフコースのメンテナンスを含むほぼすべての部署で人気が高まっています

私たちの季節スタッフは、週に24時間から30時間、通常は午前6時30分から午前11時までしか働かないため、高校生でも夏の管理を成功させることができます
サザンヒルズカントリークラブのスーパーインテンデント、ラス・マイヤーズ(オクラホマ州、タルサ)

 柔軟な勤務時間または伝統に捉われない週の労働体制を導入することに加えて、アシスタントスープリと機器操作技術者のための週末オプションと、より柔軟なスケジュールを交互に取り入れることも当たり前のことになってきています。ジョシュ・ルイスは、中核スタッフのためにより柔軟な作業スケジュールを導入することは、夏の天候がカリフォルニアでの芝管理にとって、どれほど厳しいものになるかを考えると、非常に重要だと感じています。「長く乾燥したカリフォルニアの夏には、アシスタントスープリが3週間ごとにローテーションし、その内の1人が別のスケジュール、たとえば午前10時から午後6時まで来るようにしています。この方法は、可能な限り全員が疲弊しないようにすると同時に、毎日のコース管理で必要な12〜14時間の作業をカバーできるようにするためです。また、55時間以上働いている週の数を最小限に抑えるために最善を尽くしています。これにより、健康的なワークライフバランスが可能になり、燃え尽きて症候群となって業界を去るリスクを減らすことができます」とルイス氏は述べています。

スタッフのメンタリングと開発
 メリーランド州ボルチモアのスパロウズポイントカントリークラブのスープリ、タイラー・ブルーム氏は、メンテナンスチームの構築に苦労しました。「オープン・ポジション(=職種指定なし?)への応募者はほとんどいなかったため、入社するよりも従業員の退職が先行しました。スタッフの離職率は50%近くでしたが、現実には、数週間は作業がなかったため、メンテナンスの生産性は75%でした」とブルームは話していた。この問題はゴルフコースに影響を与え始め、従業員の士気は低下しました。ブルーム氏は、初心者レベルの従業員を雇用するという問題に直面し、職種別スキル開発プログラムを整備していなかったため、ますます懸念が増しました。
 ブルーム氏は、既存のスタッフの指導とスキル開発により多くの時間を費やす必要があることをすぐに認識しました。管理スタッフを養成する彼の新しいアプローチは、州および連邦労働局によって承認された高校生向けの正式なみならい実習プログラムに発展しました。ブルーム氏が実行した重要な変更は次のとおりです。
•週30〜44時間労働の正社員12〜16人から、正社員10人の週40時間の勤務に変更
•短期間でより多くの作業を実行できるように、主に高校生と大学生で構成される10人から12人のパートタイムチームが発足させ、残業と給付費用を削減
•フルタイムの従業員が退職した場合、さまざまな時間労働の機会を得たパートタイムのスタッフに置き換えた
•コースメンテナンスの就労時間を午前6時から午後6時まで延長するために、午前、正午、午後の4時間シフトを導入。メンテナンスのために手段を最大化
•アシスタントスープリには、現在午後6時まで延長されたシフトに合わせた柔軟なスケジュール調整
 ブルーム氏は、スケジュール作成とスタッフの総人数の調整に加えて、部門別メンテナンスによる、初心者レベルのスタッフの監督を強化し、初心者従業員を横断的にトレーニングするためのサポートシステムを始めしました。メンテナンス作業を可視化するデジタルジョブボードとウェブアプリケーションは、進行管理と効率化に役立ちました。たとえば、ラフの刈り込み、トリミング作業、バンカー周りの刈り込みなどの作業効率は、プレーヤーが少ない、パートタイムスタッフがより自由に作業できる午後に実施することで改善されました。スープリはこれらの作業を監督し、リーダーシップスキルを向上させました。

より多くのパートタイムスタッフを雇用することで、より多くの従業員が朝のメンテナンスに対応できるようになりますが、フルタイムのスタッフが適切なリーダーシップを果たし、トレーニング、スープリを提供できることが重要です

以下は、開発モデルの実施以降にブルーム氏が経験したメリットです。
•コースコンディションとゴルファーの満足度は着実に向上
•従業員の離職率は50%から10%に
•2018年1月以降、スパローズポイントにはメンテナンススタッフの未充足はない
•4年間にわたる最低賃金の引き上げにもかかわらず、労働予算は横ばい
•2016年以降、学校でアシスタントスープリまたは他の熟練職の募集を行った
•数名のスタッフが、労働省と現地のGCSAA支部の奨学金と実地訓練補助金を受けている
 ブルーム氏は、従業員の就労能力と技術スキルを教えることは、従業員の育成と維持に不可欠な要素であることを強調しています。「メンタリングとコーチングは一般化できます」とブルーム氏は言います。スパローズポイントで実施されたモデルは、地元の若者と既存のコース従業員のための実習プログラムに発展しました。また、従業員の採用ツールとしても機能します。ブルーム氏は、彼のコースの実習生が業界の証明書と専門家の認識を得ることに誇りを持っています。適切なアカデミックプログラムと提携している場合、大学の実習単位を受け取ることができます。

ボーナスとインセンティブ
 ボーナスやインセンティブは、従業員や将来の従業員にとって大きな効果があります。メンテナンススタッフにとって最も明らかなインセンティブプログラムは、無料でコースをプレーできるようにすることです。ゴルフプレーの特権はコースによって大きく異なりますが、少なくとも週に1日はスタッフがプレーできるようにすることは一般的です。そして、有料でプレーするゴルファーとの問題を回避するためにいくつかのパラメーターとガイドラインを設定することは賢明な対処です。その他のインセンティブには、新しい雨具や作業服、食事プラン、スタッフの他コースでのゴルフ体験、パーティーなどがあります。これらのインセンティブをスタッフがどれほど高く評価するかを過小評価しないでください。
 一部のスープリは、毎月または四半期ごとに支払われるクリエイティブボーナスプログラムで成功しています。ボーナスプログラムの基準を伝えることは、ボーナスプログラムを最大限に活用するために不可欠です。ボーナスプログラムの成功を監督し、必要に応じて変更する準備が必要です。

募集
 多くのコースでは、IndeedやCraigslistなどのインターネット求人サイトを利用して、従業員を確保しています。多くの場合、これらのインターネットサイトは、たくさんの応募者を提供していますが、多くのスープリは、余り肯定的な評価をしていないと報告しています。過去6カ月間、ジャレッド・ネミッツ氏は、既存のスタッフが推奨する新しい人材の採用のみに依存してきました。「コースで30、90、および150日間働く新しいスタッフを推奨する従業員に50ドル、100ドル、150ドルの現金インセンティブを提供します。ネミッツ氏は次のように述べています。
 地元の教師、警官、消防士、退役軍人の募集も、ネミッツ氏にとってはうまく機能しています。「これらの人々はパートタイムまたは季節労働だけを探しているかもしれませんが、彼らが私たちのために働いてくれたとき、彼らは貴重な資産でした」とネミッツ氏は言います。「採用に役立ったことの一つは、潜在的な従業員が常に楽しい雰囲気を維持しているということです。仕事を楽しくすることに大いに役立ち、私のために働いている人と、もう少し高額なお金を払う仕事に移る人との間に違いを生む可能性があります」とネミッツは言います。
 スコット・ボードナーは、地元のFFA支部とボーイスカウトを通して募集することを提案しています。「FFAの学生とボーイスカウトはアウトドアを楽しんでおり、それがコースでの作業にうまくつながっています。Facebookも驚くべき成功を収めています。多くの場合、私たちの通常のプラットフォームでは見つけられない仕事を探している若い人がいます。また多くの定年退職者がこれらのサイトを介して私たちのチームに来ました。ボルドナー氏は次のように述べています。
 ジョージア州サバンナのフォードプランテーションのゴルフコースおよびグラウンドメンテナンスのディレクターであるネルソン・キャロン氏は、昔ながらの採用方法を使用して成功しました。キャロン氏は非常に積極的で、町の周りに定期的に仕事のチラシを掲示し、レストランや食料品店の労働者に名刺を配り、ゴルフコースで働くことのメリットを強調するために地元の高校の先生を訪問します。将来の従業員と話をするとき、キャロン氏はしばしば、自分のコースで働くことは、天候によってより影響を受ける可能性のある他の業界(造園業者など)よりも一定した週労働時間を提供できると話します。これは、一定した給与を重視する従業員にとって特に魅力的です。

結論
 ゴルフ場が直面する労働上の課題はなくなりません。競争力のある賃金の提供、より多くのパートタイムスタッフの活用、柔軟な勤務スケジュールの作成、メンタリングと開発プログラム、ボーナスとインセンティブ、および積極的な採用方針は、現在の労働市場におけるスープリが求める人材ニーズを満たすための戦略のほんの数例です。ゴルフコースのリーダーとして、メンテナンススタッフを育成する新しい方法に目を向けることが重要です。万能の解決策はありませんが、何らかの形で適応しなければ、あなたとゴルフコースを成功させるために必要なプレー条件を作り出すことはさらに難しくなるでしょう。

Adam Moellerは、USGA Green Section教育部のディレクターであり、北東部地域でコースコンサルティングサービスを担当している。

謝辞
この記事への貢献に対して、Nelson Caron、Jared Nemitz、Russ Myers、Scott Bordner、Tyler Bloom、Josh Lewis、Blake Meentemeyerに感謝します。

原文:https://www.usga.org/content/usga/home-page/course-care/green-section-record/58/5/building-a-modern-maintenance-staff.html

By 喜田 任紀

月刊ゴルフマネジメント前編集長、一般社団法人関東ゴルフ連盟グリーン委員会参与

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