英国ガーディアン紙(WEB版)2021年8月26日付で「London golf courses could provide homes for 300,000 people, study says」という記事が掲載されました。直訳すれば「ロンドンのゴルフ場は30万人分の住宅を提供できるという研究結果が発表された」となります。おいおい、ゴルフ場をなくして住宅を建てようという話? となりますが、それほど単純な話ではありません。ゴルフコースは多くに人に恩恵を与えるべきだという主張のようです。

 とは言え、住宅問題を抱えるロンドンですから背景には問題解決の手がかりを探そうという提案でもあるようです。提案者のラッセル・カーティス氏は「首都のすべてのゴルフ場を住宅に変えろと言っているのではないが、一部のゴルフ場は生物多様性のある緑地やスポーツ施設、例えば都市型の農園などは首都住民がより利用しやすい環境の整備になる」と言っています。

 イングランドゴルフ協会は、「ゴルフは、プレーされる地域の経済的、環境的、社会的な福祉に貢献しています。このスポーツは、肉体的にも精神的にも多くの恩恵を人々に与えてくれます。コースでは、広々とした緑地にアクセスでき、仕事や生活の日々のストレスから解放され、社会的なコミュニティが形成され、年齢や能力を問わず、毎月300万人以上の人々が穏やかな運動を楽しんでいます。特に人口密度の高い地域では、他のスポーツと比較して、高い割合のゴルファーが身体活動をこのスポーツに依存しているという分析結果が出ています。さらに、ゴルフコースは野生動物や植物の生息地となっており、運営団体は持続可能性の重要性を認識し、強調しているため、環境や地域社会にプラスの影響を与える役割を担っています」と主張しています。

 ところで、2019年に東京でUSGAが開催したシンポジュウムを覚えていますか? 講演テーマの中に、ミネソタ大学のブライアン・ホーガン氏による「都市生態系におけるゴルフの価値:自然資本プロジェクトの事例」という研究発表がありました。米国ミネソタ州で行われたゴルフ場に関する調査では、ゴルフ場が地域の環境に大きな恩恵を与えていることが分かったこと。特に、気温の上昇、受粉、生物多様性などについて講演がありました。適切に管理されたゴルフ場は、土地利用の中で最も高い冷却効果をもたらし、ゴルフ場を住宅地や工業地に転用すると、地域社会の環境価値が損なわれ、生物多様性の低下、気温の上昇、地表や地下水への栄養分の流亡などが起こる可能性があるいった内容でした。

 USGAのシンポジウムのテーマは、ゴルフ施設の持つ有用性を広く認知させることで、ゴルフの普及を進めようというものでしたが、ガーディアンの記事は、人口が密集する大都市ロンドンではゴルフ施設と一般社会との共生が大きなテーマとなってきているという内容です。

 ところで、こうした記事になるロンドンのゴルフ事情はどうなっているのか、改めて調べてみました。ゴルフが社会生活の中で身近な存在であるロンドンのゴルフ事情に日本との違いがあるのかなと考えてしまいました。

 まずロンドン市(大ロンドン行政区)にはイングランドゴルフ協会調べで94コースのゴルフ場があります。同じ首都の東京都には21コースが存在します。面積はロンドンが1,569㎢で東京は2,193㎢です。ロンドンは約17㎢に1コース、東京は104㎢に1コースです。密集度でいえばロンドンは東京の6倍です。人口当たりでは、ロンドンは1コース当たり9万4,700人、東京は66万8,700人です。東京の7割の面積、6割の人口に対して4.5倍のゴルフ場があります。さすがゴルフ発祥の国、ゴルフがどれだけ生活と密接な関係にあるかを感じさせてくれる数字でもあります。東京に同じ環境は望むべくもありませんが、これだけ違うのです。ロンドンの住宅事情については全くの門外漢ですが、ロンドンの住宅事情は結構厳しいようです。公共用地を利用するゴルフ施設の在り方が、ロンドンだけでなく地方都市でも議会で話題になっているという記事を見ます。

 一般新聞としては、一方的な主張を取り上げるのではなく、突っ込んだ取材をしています。ちょっとロンドンのゴルフ事情を感じられる記事です。

出典:https://www.theguardian.com/politics/2021/aug/26/london-golf-courses-could-provide-homes-for-300000-people-study-says

By 喜田 任紀

月刊ゴルフマネジメント前編集長、一般社団法人関東ゴルフ連盟グリーン委員会参与

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