参加率でみる現状と課題

 スポーツ庁の「スポーツの実施状況等に関する世論調査」のロウデータが発表されて2022(令和4)年版で5年になります。そこで、5年間のデータをまとめました。

 表1は過去5年間のゴルフコース参加率をまとめたものです。ゴルフコースでラウンドした人は、2018年には7.4%でしたが、19年は7.1%、20年は6.6%、21年は6.2%と参加率を下げてきています。新型コロナウイルス(Covid-19)の初めての発生が中国・武漢市で確認されたのが2019年12月で、日本国内で発症が確認されたのは20年1月に中国・武漢からの帰国者からでした。海外では感染防止のため外出禁止等の外出制限(ロックダウン)が実施されましたが、日本は外出自粛等により20年はゴルフ場やゴルフ練習場などで利用を控えるという動きがありましたが、感染防止対策の実施に加え、野外でのスポーツ活動の安全性への認識が広まったこともあり、20年はゴルフ場の利用者数は対前年比で5.4%の減少となりましたが、21年は利用が増加し、対20年で10.3%増、対19年でも4.3%の増加となりました。21年の2桁増は、海外でいわれるパンデミックボーナスが日本でも確認されたということです。このゴルフ場利用者数の増加と連動するようにゴルフコース参加率が増えていますが、ゴルフは他のスポーツと比較してもパンデミックボーナスという要素が強いことから、今後のゴルフ市場の動向を判断する上で、現状のマーケット分析は冷静な判断が求められます。ゴルフは、大衆化が進んだ結果、経済活動としての要素を多く含むようになっています。個人利用が中心になっているだけに、趣味の実現のための要素について十分な理解が必要です。特に、日本の人口が減少するという社会構造の転換が進む中での個人消費という側面に注視すべきです。

 表の全体としての参加率をグラフにしたのが次の図1です。

表1ゴルフコース参加率

ゴルフコース

2018

2019

2020

2021

2022

全体

7.4%

7.1%

6.6%

6.2%

6.4%

男性

12.7%

12.5%

11.5%

10.4%

11.0%

女性

2.1%

1.8%

1.8%

1.9%

1.8%

 2023年4月現在で報告されているゴルフ場の利用者数は22年に引き続き増加を続けているようです。冬期は天候要因が大きく影響することと、ゴルフはオフシーズンであり増減率が大きく出る傾向がありますから、ゴルフシーズンに入ってからの利用状況を待たなくては傾向の判断はできないと思います。しかし、この5年間の参加率を考えると、参加率は低下傾向にあります。

 この図はx軸が調査年を示してありますから、1年ずつ増える調査年に対する参加率という関係で傾向を見るのはどうかなと思われるでしょう。調査年が意味するのは日本の人口だとすると、次のような関係図になります。

 x軸は2018年以降のそれぞれの年の日本人口です。近似式をそのグラフが破線の直線で示されています。xがマイナスですから右肩下がりの傾向となります。この近似式の推計値がどれだけ当たっているかを示す法定係数R2は0.76です。R2は0~1までの数値で示され1に近いほど計算式の値が適切な値ですよという意味です。0.76は、この計算式が、結構いいところですよということになります。残念ながら過去5年間のデータからは参加率は低下を続けると予想されることになります。

 最近のNGF(米国ゴルフ財団)のCEO、ジョー・ベディッツさんの米国のゴルフマーケットに対する危機を初会してありますが、比較的楽観的な意見を持っているベディッツさんですが、現況についてはパンデミックボーナスの効果を一時的な、まさにボーナスと見ましょう的な考えのようです。何度か書いていますが、米国は移民政策もあり人口は増えています。そして、増えているのが白人層ではなくてマイノリティーといわれる非白人層で、この人口構成が今後のゴルフマーケットのテーマだということのようです。ゴルフ人口の核となる人口は増えているわけですから、ゴルフ人口増は大いに期待できるわけです。ところが日本は、少子高齢化の進行で人口減少社会へと社会構造自体が大きく変化しました。2100年には人口は半減し、大正14年の人口規模になる予測です。ずいぶん先の心配をするより、今の目前の課題が大事と言われるでしょうが、ゴルフ業界が抱える問題は、ゴルフ人口の減少に歯止めがかけられるのか、利用回数を含め市場規模は維持できるのかという点にあり、人口減少は大きな問題です。さらに、これまでゴルフマーケットを支えてきた団塊の世代のゴルフマーケットからの離脱への対応と、新規需要の創造が現在の課題です。ゴルフ人口の増加が見込めないのであれば、ゴルファー1人当たりの利用回数を増やす、客単価を上げる、コスト管理をさらに徹底し収益性を確保するといった対策を強化する、またはマーケットの縮小均衡を前提にした政策を実施するかということになります。今は、その選択の時期なのかもしれません。

 なぜゴルフ場利用者数とゴルフコース参加率が増えたかの理由とこの状況は継続するのか、それを裏付ける理由を見つければ、対策もおのずから決まる気がします。

男女の参加率に見る課題

 全体の動きを紹介しましたが、男女別の参加率の動きも紹介します。男性のゴルフ人口(後述します)が全ゴルフ人口の85%を占めていますから、全体の傾向を男性ゴルファーの傾向といってもよい内容になります。図1-2に5年間の動きを示しましたが、2023年の参加率(11.0%)は21年比では増えましたが18年(12.7%)と比較すると2ポイント近い低い参加率です。男女を含めた全体での参加率が前年を上回り、男性も参加率が上昇しましたが、回復(どの時点かも問題ですが)したとはいえないと思います。

 全体の動きは男性ゴルファーの動きで説明できますが、今後のゴルフマーケットで注目すべきは女性マーケットといわれています。女性マーケットに注目しているのは米国も英国も同じです。ただ社会背景が違う点は頭に入れておいてください。ただR&Aの女性と家族をテーマにした取り組み(ガイドラインはココから)は参考にできると思います。特に家族(Family)というキーワードは日本でも採用すべきだと思います。

 さて日本の女性ゴルファーの参加率ですが、なかなか上昇しないようです。人口減少社会の中でゴルフマーケットを活性化しようとすれば女性のゴルフ参加を増やすことが重要な政策になるのですが、子育て、育児という面からの制約が強く参加率が上がらない。グラフにもあるように2018年は2.1%ありましたから、2%の壁を崩したいですね。

 ところで、考えて欲しいのは、なぜ人口が減少するとゴルフの参加率が下がるのかという関係です。人口そのものが減少するのだからゴルフ人口も減少するのは当たり前と考えられますが、ここで取り上げているのは参加「率」です。分母の総人口が減少しても同じ率でゴルファーが少なくなれば、参加率は変化しないはずです。総人口の減少を上まわるゴルフ人口の減少が起きるから、ゴルフ参加率が低くなるわけですから、この参加率の低下は深刻な状況を示していることになります。現状のゴルフ人口を維持できれば、参加率は上昇するはずなんです。スポーツマーケットにおけるゴルフのシェアも拡大する。ただ、量的な拡大につながるかどうかは課題です。ゴルフ文化はなくならないでしょうが、ゴルフマーケットの維持を望むのであれば、ゴルフ市場運営という視点が必要になり、これはゴルフコースが単体で取り組むテーマではなく、業界として取り組むテーマであるはずです。

ゴルフ練習場の参加率で考えること

 ゴルフ練習場の参加率についても紹介します。

 気になるのは減少傾向が続いている点と、パンデミックボーナスがゴルフ練習場の参加率では起きていないことです。参加率は単純に人口ですから、参加率が増えていないことは練習場人口が増えていないということになります。練習場で新規ゴルファーを増やそうという意見が多く聞かれるのですが、新規ゴルファーが増えていたとしても量的な拡大は起きていないことになります。ゴルフは、練習場でのゴルフを経験せずにいきなりコースでゴルフはハードルが高いスポーツであるといえ、練習場での参加率が増えていない点は今後のマーケットを考えると非常に気になります。

 米国ではエンターテイメント性からトップゴルフが注目され、NGFもゴルフコース以外のゴルフ施設でのゴルフ人口の増加に注力しています。トップゴルフは発祥は英国ですが、米国でビジネスとして開花したということですが、英国ではイングランドゴルフ協会など4カ国のゴルフ協会がそれぞれにゴルフ振興策を実施しており、その取り組みにはゴルフ練習施設やプロゴルファーが参加するプログラムが提供されています。日本でもゴルフ場と練習場、プロゴルファーといった業界内での横に連携した活動、プログラムが広く展開されることが望まれますし、ゴルフ協会がハブとして機能するとか、中核になって活動することで一般のゴルファーやこれからゴルフを始めたい人のゴルフへの障壁をなくす広範な取り組みが必要です。

 次回は、年齢別参加率の推移を紹介します。

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備忘録として スポーツ庁の「スポーツの実施状況等に関する世論調査」のデータ精度について | Japan GOLF INDUSTRY NEWs (xdomain.jp)

By 喜田 任紀

月刊ゴルフマネジメント前編集長、一般社団法人関東ゴルフ連盟グリーン委員会参与

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